鈴木成子

薄暗い中に、水を使う音、ときおりの人の声、自転車のベル、荷車をころがす音が聞こえ始める。外の明るさがますにつれて、雑多な物音が高まってくる。宿の近くにあらゆる生活用品がそろっているニューマーケットがあるので、早朝からにぎやかだ。そのかなりの騒音が神経にさわらない。屋外にある水道でバシャバシャ水浴びする音、洗濯物をバンバン打ちつける音、金属のなべかま食器がガシャガシャふれあい、それを前日の調理の残り灰でギシギシこする音、スパイスを石でゴリゴリすりつぶす音、カラスがカアカア、スズメがチュンチュン、野豚がギュガギュガ、野良犬がキャウィーンキャウィーン、ドアをバタンと閉める音、自転車のまえ・うしろ・両ハンドルに不可能な量の荷をつんだ人がひっきりなしに鳴らすチリンチリンチリンというベルの音・・・・・・。ときどき物売りの声と家の中の声がやりとりされる。学校へいく子どもたちのかん高い声がする。機械がたてる音でなく、人の日々の営みの音につつまれて、ああインドに帰ってきた、とよぶんな力がぬけていく。